魚類のように、水中で体外受精を行う動物にとっては、放卵と放精のタイミングが正確に一致していることが、受精を成功させるために必須となっている。ヒメマス(陸封型ベニザケ)では、雌雄間で信号を交換すること、すなわち、互いにコミュニケ-トすることにより、配偶子放出のタイミングを一致させている。本年度は、行動学的手法および電気生理学的手法を用いることにより、(1)『雌雄間で交換されている信号は、何か?』、(2)『その信号を受容・処理している感覚系は、何か?』、を明らかにすることを目的とした。 まず、(1)自由に行動しているヒメマスの雌雄から、体側筋の活動電位と体振動の加速度を有線的に誘導記録することにより、体振動に由来する振動的信号が配偶子放出の同期化に関与しているかどうかを調べた。その結果、雄の放精に先だって雌(雌の“Prespawning Act"時)に体振動が、雌の放卵に先だって雄の(雄の“Spawning Act"時)に体振動が記録されることから、ヒメマスは、体振動に由来する信号を互いに交換することにより、放精と放卵の同期化を達成していると考えられる。 つぎに、(2)振動的刺激の受容・処理に、側線神経系が関与しているかどうかを調べる目的で、雄の放精行動および側線神経応答に及ぼすCo^<2+>イオン(側線受容器レベルでのmechanoーelectrical transductionの阻害剤)投与の影響について調べた。その結果、1mMCo^<2+>イオン中で1時間以上泳がせておくと、振動模型に対する雄の放射行動が顕著に阻害され、また、振動刺激に対する側線神経応答も消失することが分かった。このことから、雌の“Prespawning Act"行動に由来する振動的信号を受容・処理している感覚系は、側線神経系であると結論される。
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