昨年度に引き続き、ラット脳におけるタンパク質燐酸化活性および燐酸化基質タンパク種に対するメチル水銀(MeHg)の影響について検討を行なった。メチル水銀投与(10mg/kg bw、7日間)後の初期(4日)、潜在期(9日)、発症期(14〜15日)の各時期の脳について検討を行ない以下の結果を得た。 1.ラット脳のサイトソル画分の全タンパク燐酸化活性については昨年度の実績報告書に記したが、さらに膜画分(核上清の10万g遠心で得た沈澱画分)についての燐酸化活性を調べたところ、サイトソルと同様、MeHgの影響がタンパク種によって異なっていた。また、PKC活性と全燐酸化活性の変動のパターンは等しかった。 2.単離ニューロン核の全燐酸化活性は、Ca^<2+>添加により〜2倍程度に、TX-100添加によっては〜4倍程度に上昇した。 3.上記ニューロン核に対するMeHgの影響を調べたところ、全核活性は潜在期までは大きな変動は見られないが発症期には対象に2倍程度に上昇した。燐酸化反応後、電気泳動法によって分離した主要バンドについても調べたところ、多くのタンパク種はそれぞれに特異的な変動パターンを示し、各タンパク種の燐酸化に対するMeHgの影響は一様ではなかった。なお、Ca^<2+>、TX-100存在下での各種タンパクの燐酸化活性のMeHgによる変動は、非存在下の場合と大きな違いは認められなかった。 3.単離核による実験で興味ある結果が得られているが、更に核内の燐酸化酵素や基質の局在性とこれに対するMeHgの影響を調べるために、核の種々の画分について現在検討を行なっている。この方法は基質ATPの核膜透過性に対するメチル水銀の影響を排除出来る点でも有用であると思われる。
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