1.メチル水銀中毒症ラット脳のサイトソルと画分におけるタンパク燐酸化活性の変動について (1)脳サイトソル画分の標準、カルシウム、及びcAMP依存性全燐酸化活性はメチル水銀中毒の各時期に於て大きな変動は認められず、さらに特異的基質(カゼイン、ヒストン、Cキナーゼ基質断片)存在下での全活性もメチル水銀による変動は認められなかった。(2)ラット脳サイトソル画分をin vitroで燐酸化後、二次元電気泳動法によって分析したところ、CBB染色によっては約150種、オートラジオグラフィーによっては約70種のタンパク質が検出された。メチル水銀による活性変動はタンパク質種により大きく異なり、発症期には有意の増加を示したタンパク質種が多く認められた。(3)αチューブリンの燐酸化活性全期間にわたって低下したがβチューブリンでは発症期に増加を示していた。 2.メチル水銀中毒症ラット脳の核画分におけるタンパク燐酸化活性の変動について (1)精製した全細胞核画分のタンパク燐酸化を調べたところカルシウム存在下/非存在下どちらの場合にも初期および潜在期において有意の活性減少が認められ発症期には回復していた。(2)細胞核を音波処理/高塩濃度によって分画したところ、全活性、Ca^<2+>依存活性、Aキナーゼ、Cキナーゼ、CaMIIキナーゼ基質の燐酸化活性などに違いが認められ、中毒症初期で活性減少したものが認められた。(3)核画分を燐酸化したのち、SDS/PAGEで分別した約20種の蛋白質ごとの変動について調べたところ、蛋白質種によって異なる変動パターンが得られた。以上、細胞質、核共に、メチル水銀は細胞核蛋白質燐酸化に対して蛋白質種毎に異なった度合と方向(抑制的、刺激的)の変動をもたらし、細胞内シグナル伝達系の撹乱によって発症するものと考えられる。
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