我々は軟体動物、環形動物など無脊椎動物や魚類などの下等脊椎動物に含まれるグロビン鎖(ヘモグロビン鎖、ミオグロビン鎖)のアミノ酸配列を調べることによりグロビン鎖の分子構成、類縁関係やその分子進化の過程の解明を試みてきた。今回、軟体動物のなかでは最も原始的な動物群と言われる双神経亜門に属するヒザラガイ綱のもつミオグロビン酸配列をこの亜門としてははじめて明らかにすることができた。今までに知られているグロビン鎖はもうひとつの亜門、貝殻亜門、に属する生物から得られたものだけであったので、今回の結果によりはじめて軟体動物という大きな動物群をもつ集団のもつグロビン鎖のアミノ酸配列の全貌とその類縁関係を明らかにすることができた。そこで、我々はこれらのデータを用いて我々の開発したコンピュータプログラム及び広く利用されているプログラムを用いて分子系統樹を作成し、各鎖の類縁関係と進化の概要を解明した。その結果、軟体動物グロビン鎖は筋肉ミオグロビンと血球ヘモグロビンに分けられ、筋肉ミオグロビン鎖は単量体ミオグロビンと二量体ミオグロビンに分かれた。一方、血球ヘモグロビン鎖はフネガイ科の二枚貝に含まれるホモ二量体、ヘテロ二量体、4量体、2ドメイン型のヘモグロビンなどであり、もうひとつは共生細菌を体内にもち硫化水素運搬能力をもつヘモグロビンである。また、これらの分子の分子構造上の分化は進化の過程のかなり初期に分かれたものと判断された。
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