1.ウリキンウワバの単眼は340nmの紫外光及び520〜540nmの緑色光に対しそれぞれ極大感度を示す。正常個体では、20〜30分間の動物全体への背景光照射に伴い単眼の緑色光感度と紫外光感度の比(GR/UV)が大きく低下する。脳と単眼を連絡する単眼神経を切断すると、背景照射に伴うGR/UVの低下は起こらなくなるが、この時切断した神経を遠心的に電気刺激するとGR/UVは顕著に低下する。これらの結果はGR/UVを下げる働きを持つ脳からの神経情報が、背景の明るさの上昇に伴い増加する事を示している。クモでは遠心性情報は光照射終了後に増加し眼の感度を上昇させるが、自然環境下での遠心性情報の変化に伴うクモとヤガの眼の感度の変化はよく似たものであった。 2.コガネグモの脳を覆う部分のクチクラはほとんど色素を持たず光をよく通す。この部分をライトガイドの先端に固定し、肢にY型迷路球を持たせたクモを用いて、クモの影からの逃避行動に及ぼす脳内光感受性細胞の役割を調べた。その結果、440nm付近に極大感度を持つ脳内光感受性細胞が影からの逃避行動に関与している事が明らかになった。 3.コガネグモの視細胞の応答は脳内に細胞体を持つニューロンの情報により遠心性の調節を受けており、恒常暗黒下では感度のサーカディアンリズムを示す。今回我々は、オクトパミンのコガネグモ前側眼の応答に対する作用について調べた。夜には、昼に比べ闘値が1log以上低下し、また夜のERGは2つのピークを示したり昼に比べピークが幅広くなったりする。昼、生理的食塩水中にオクトパミンを投与すると、闘値が2log近く低下し、応答波形のピークが2つに分離したり幅広くなった。このオクトパミンの作用は、視神経を介した遠心性の作用に大変良く似ていた。これらの結果は、コガネグモの遠心性神経繊維から放出される伝達物質はオクトパミンである事を示している。
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