細胞分裂期にヒストンH1キナ-ゼが上昇することは現在では良く知られている。一方、DNA合成時については不明な点が多い。本研究は培養肝細胞を用いDNA合成開始とヒストンH1キナ-ゼ活性化の関係を明らかにすることを目的とする。本年は、培養肝細胞におけるDNA合成開始とヒストンH1リン酸化の関係を明らかにした。 再生肝では放射線によるDNA合成の阻害を指標としてヒストンH1のリン酸化、ヒストンH1キナ-ゼに関する研究を進めてきたが、培養肝細胞のDNA合成は放射線によりあまり阻害されず、放射線が肝細胞直接ではなく全身的に作用した結果、間接的にDNA合成が阻害されたことが示唆された。酪酸ナトリウムが細胞周期をG1期で停止させることが知られているので検討したところ、培養肝細胞についても同一の作用をもつことが判った。即ち、酪酸は濃度依存的にDNA合成( ^3Hチミジンの取込み)を阻害した。次いで、 ^<32>Pオルトリン酸を培地中に加え、ヒストン分画への取込みを測定した。培養肝細胞では再生肝とは異なった時間経過をたどってDNA合成が進行するが、DNA合成開始と共にヒストンH1のリン酸化が開始され、DNA含成の進行に伴ってリン酸化も進行した。酪酸ナトリウムはDNA合成する場合とほぼ同濃度でヒストンH1のリン酸化を阻害した。コアヒストンのリン酸化もほぼ同時に生じ、酪酸ナトリウムで阻害された。以上の結果から、培養肝細胞においてもヒストンH1のリン酸化がDNA合成の開始と密接な関係にあることが示された。次年度においてこのヒストンリン酸化を行なう酵素について、特にp34^<cdc2>に注目して検討する。
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