緋メダカ(bbRR)卵にマウスチロシナーゼ遺伝子(mg-Tyrs-J)を移入し、皮膚にメラニン沈着を示すトランスジェニックメダカを作出した。遺伝子移入には(1)未受精卵の核に微量注入後、人工媒精する方法と(2)自然交媒による受精直後の卵にエレクトロポレーションにより導入する方法とが採用され、前者で3匹、後者で38匹が作出された。作出されたトランスジェニックメダカは皮膚に明瞭なメラニン沈着を示すメラノフォアが分布し、その光顕像は緋メダカ(純系)と異なる。これらのメラノフォアは分布密度・形態学的性状から緋メダカに分布する“amelanotic melanophore"に相当し、抗マウスチロシナーゼ抗体による免疫組織化学的検索はマウス型チロシナーゼが分布していることを示した。電子顕微鏡的検策はこれらのメラノフォアに分布するメラノソームは内部に格子状結晶構造をもち、野性型メダカのメラノソームに見られる“multivesicular"型メラニン沈着とは異なることを示した。トランスジェニックメダカ皮膚でのメラニン沈着はザンソフォアやロイコフォアには認められず“amelanotic melanophore"で選択的に惹起されており、導入遺伝子は種差を超えて色素細胞型を識別し発現すると推測された。トランスジェニックメダカと純系緋メダカを交雑すると野性型および緋メダカの体色を示すF1が約1:1の比で出現する事例が認められ、移入された遺伝子はメンデル遺伝の法則にしたがって継承されることが強く示唆された。トランスジェニックメダカのF1には緋メダカ起源にも拘わらずザンソフォアを欠く個体が頻度高く発現するのでこの細胞型の分化とチロシナーゼ遺伝子との密接な関連が推測される。
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