胚膜による六脚類の系統構築は現在までにしばしばなされてきた。しかしながら私の現在までの研究から、この系統構築はイシノミ類の胚膜に関する不十分な観察によりもたらされたミステリ-ディングなものである可能性が高いことが明らかになってきた。本年度はイシノミ類の胚膜を詳細に記載した。そして、この結果を基に、イシノミ類の胚膜の触角類(多足類+六脚類)における位置づけを通して、六脚類の系統発生の再構築を試みた。観察・考察結果は下記の通りである。 1.イシノミ類の胚膜褶は質的に漿膜褶であり、シミ-有翅昆虫類の羊漿膜褶との相同視は誤りである。 2.イシノミ類の漿膜褶は、胚域のクチクラ形成能の放棄にともない進化過程で獲得されたものであり、羊膜は漿膜の退化後の胚外域として第一義的に理解できる。また、このイシノミ類の胚膜の状態はシミ-有翅昆虫類の胚膜・羊漿膜褶の前適応として理解できる。 3.触角類の系統進化は胚域・胚外域の機能分化の過程として次のように統一的に理解できる:多足類→トビムシ類・コムシ類(以下六脚類)→イシノミ類→シミ-有翅昆虫類。 4.シミ-有翅昆虫類の羊漿膜褶の機能については現在まで定説は見られなかったが、以上の考察から第一義的な機能はイシノミ類の漿膜褶のような卵表全面でのクチクラ形成にあると結論づけられる。 以上の結果は2篇の論文として公表(印刷中ならびに準備中)。
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