胚膜による六脚類の系統構築は現在までにしばしばなされてきた。しかしながらこれらの系統構築は無翅外腮類昆虫の胚膜に関する不十分な観察によりもたらされたミスリーディングなものである可能性が高いとの考えから、私はこれらに関して詳細な再検討を行ってきた。研究期間の最終年度である本年度は、現在までの研究結果を系統学的に考察し、4篇の原著論文を執筆した(印刷中3篇、投稿中1篇)。これらの中で展開した議論・結論は下記の通りである。 1.イシノミ類の胚膜褶は質的に漿膜褶である 2.イシノミ類の漿膜褶は、胚域のクチクラ形成能の放棄にともない進化過程で獲得されたものであり、羊膜は漿膜の退化後の胚外域として第一義的に理解できる。また、このイシノミ類の胚膜の状態はシミ-有翅昆虫類の胚膜・羊漿膜褶の前適応として理解できる 3.従来関連づけられてきた、シミ-有翅昆虫類の羊漿膜褶とイシノミ類の卵黄褶との間には、いかなる相同性も存在しない 4.触角類の系統進化は胚域・胚外域の機能分化の過程として次のように統一的に理解できる:多足類→(以下六脚類)トビムシ類・コムシ類→イシノミ類→シミ-有翅昆虫類 5.シミ-有翅昆虫類の羊漿膜褶の機能については議論は推測の域を出なかったが、以上の考察から第一義的な機能はイシノミ類の漿膜褶のような卵表全面でのクチクラ形成にあると結論づけられる 6.シミ類のマダラシミの胚膜の状態は原始的なものととらえられてきたが、詳細な考察の結果、これはこのグループの特化状態であると結論づけられた
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