胚膜による六脚類の系統構築は現在までにしばしばなされてきた。しかしながらこれらの系統構築は無翅外腮類昆虫の胚膜に関する不十分観察によりもたらされたミスリーディングなものである可能性が高いのとの考えから、私はこれらに関して詳細な再検討を行ってきた。平成3〜5年度の研究期間において得られたデータを基にして、当該のテーマに関しての系統学的議論を展開し、1篇の総説、4篇の原著論文を発表した。主要な成果は下記の通りである。 1. イシノミ類の胚膜褶は質的に漿膜褶である 2. イシノミ類の漿膜褶は、胚域のクチクラ形成能の放棄にともない進化過程で獲得されたものであり、羊膜は漿膜の退化後の胚外域として第一義的に理解できる。また、このイシノミ類の胚膜の状態はシミ-有翅漿膜褶昆虫類の胚膜・羊漿膜褶の前適応として理解できる 3. 従来関連づけられてきた、シミ-有翅昆虫類の羊漿膜摺とイシノミ類の卵黄褶との間には、いかなる相同性も存在しない 4. 触角類の系統進化は胚域・胚外域の機能分化の過程として次のように統一的に理解できる:多足類→(以下六脚類)トビムシ類・コムシ類→イシノミ類→シミ-有翅昆虫類 5. シミ-有翅昆虫類の羊漿膜褶の機能については議論は推測の域を出なかったが、以上の考察から第一義的な機能はイシノミ類の漿膜褶のような卵表全面でのクチクラ形成にあると結論づけられる 6. シミ類のマダラシミの胚膜の状態は原始的なものととらえられてきたが、詳細な考察の結果、これはこのグループの特化状態であると結づけられた
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