1.哺乳類の生殖腺の表現型の卵巣または精巣への分化は、遺伝的な性の決定にしたがって進行するが、まだ性(精巣)決定遺伝子の発現と生殖腺の精巣への分化とを直接結ぶ物質的背景は明らかではない。 2.生殖腺は、それを構成する生殖細胞と体細胞とが相互に作用しあって増殖し、分化して形を作り、機能することと、生殖腺が種々の性ステロイドや生理活性ペプチドを産生することから、胚の分化・発達や成体の生殖腺の機能に有効な細胞増殖因子について、周生期の哺乳類(ネズミ)生殖腺における、これらの因子の発現や作用を生体系、培養系、および移植系で検討した。 3.周生期における生殖腺の形態と機能の分化・発達に伴う細胞増殖因子(インヒビン、TGF-β、EGF、FGF、IGF-II)の発現動態を免疫組織化学的に調べ、発現の部位・時期・量的変動と生殖腺の形態的発達変化との関連をまとめた。 4.周生期の生殖腺において発現が示された細胞増殖因子、増殖因子抗体、性ステロイドなどを含む合成培地中で、胎生13日齢のネズミ胎児の未分化生殖腺を器官培養して、精細管形成および生殖細胞の分裂などの形態的、機能的変化におよぼす、それぞれの物質の効果を明らかにした。 5.胎生13日齢の雌の未分化生殖腺の移植体に対して、胎生17日齢の胎児精巣も成体精巣も、共に形態的な卵精巣化を誘導するが、成体精巣により形成された卵精巣では、生殖細胞にも体細胞にも細胞増殖因子の発現が認められず、胎児精巣と成体精巣の精巣化誘導性に質的差異が存在することが示された。
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