研究概要 |
当初計画した重点グル-プであるミノウミウシ亜目の記載分類を,大きく発展させることが出来た。さまざま手段で採集され,良い状態で固定された標本について,光学的・電子顕微鏡的な形態観察を行っている。解剖学的研究では,多くの種について切片標本からの3次元構造の再構築をはじめ,針のみを用いた微小種・標本の完全な解剖の技術を会得することによって,生殖器系の立体配列の詳細をこれまで以上に完成させることに成功した。このことによって従来の記載の誤りを正すいっぽうこれまで不明だった系統関係を明らかにしている。また電子顕微鏡像から得られた摂餌器官の立体構造と,光学顕微鏡による記載のギャップを埋める研究を発展させている。これらの基本的な観察研究を基本としてとくに以下にあげる知見を得たことは特筆される。いずれの内容も次年度にいっそう発展させる計画である。1.色彩等種内変異と明らかな種差を明確に区別する上で,餌のもつ影響力について実験的な評価を行うことに成功した。このことは同時に,色彩の種内変異が少ない種の餌ニッチを,高い確度で予測することを可能にした。2.親個体の形態にとどまらず,浮遊ヴエリジャ-幼生や着底変態直後の幼体の微細な形態を比較検討し,系統関係の再検討を行った。この結果,属位の統合・分割の議論に新しい評価を与えることが出来た。3.いくつかの隠れた種,同胞種の発見をし,これを予測する上で有効な手法を確立することが出来た。4.わが国の裸鰓類相には,これまでに発見されていなかった海外の生物地理学的に重要な既知種が相当含まれていることが判明した。特に南アフリカ要素や南米大陸,オセアニア要素との共通性について論議することのできる標本を,多数採集することが出来た。
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