これまでに採集できた標本サンプルのうち、本研究課題の中で重点的に取り上げてきたミノウミウシ亜目の種については特に研究が進展した。具体的には、解培等比較形態学的知見と繁殖様式の特性や生態特性に関する知見をつきあわせる形で、種内変異とそうでないものの検討を行ってきた。その結果、隠れた別種の存在が明らかになり、アルファ段階の分類学に寄与しながら、近縁種の同所的な生息の形態についての考察も加えることができた。ヴェリジャー幼生の比較形態学的情報を生態学のレベルで応用できる段階にもなった。 また、生物地理学的な知見の増加も本研究成果の重要な部分である。新種の発見に加えていくつもの本邦初記録種を確認することができたが、極海経由の分布が比較的要易に推察される種に加えて、これまでの分布状況から判断すると説明の困難な種が予想以上に存在することが判ってきた。つまり、世界各地の、生物地理学的に連続性が希薄と思われる地域に生息する種が本邦にもかなり存在していた。これらは、人間活動の影響、とりわけ海上交通・海上輸送の著しい増加によって、固着型の餌である刺胞動物の伝播と一緒になって分布を広げてきたものと考えられた。当該種の繁殖様式の観察を行ってみても、それらは長期間の浮遊をする幼生を出さず、卵栄養型の発生をしてごく短期間に定着変態持つこともわかった。 属、科レベル以上のタクサの体系の再考、系統の考察については、現在も主として解剖的所見の蓄積を進めているが、残念ながら最終年度のいま、まとまった形で出版できるだけの段階に至っていない。今後は、一層この努力を続けて行く。
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