日本近海のホヤ相の主要な構成要素は熱帯系の種であり、これには発生学、生理学あるいは薬学の研究対象となっている種も多数含まれる。これら熱帯系ホヤの全体像の把握と分類学的整理は遅れている。本研究の目的は、このような現状を大幅に改善するため、これまで断片的な知見しかない南西諸島などで集中的な採集を行い、得られた標本の同定および該当する種の分類学的整理を行うこと、そしてその結果を、検索表や生態カラー写真を含んだモノグラフにまとめることにあった。 採集および生態カラー写真撮影のための野外作業はすでに前年度までにほぼ順調にすすんだ。ところが、その採集標本の分類学的整理のために必要不可欠である、欧米の博物館などが所蔵するタイプ標本の借り出しが、このところ以前ほどスムースに進まなくなっていることなどにより、研究成果を原著論文として印刷公表するに至らなかった。本年度に作成した「研究成果報告書」はこの原著論文のエッセンスではあるが、論文のオリジナリティー保護のため、相当数にのぼる新種や日本新記録種の正式な記載・記録は省かざるをえなかった。とはいえこの報告書は、日本の熱帯系ホヤ類約60種のそれぞれについて他種との識別に有効な特徴を中心に形態の概略と分布を記し、生態カラー写真をそえ、さらに日本産の13科約60属のすべてにわたる検索表を付した。こうして日本の熱帯系ホヤ相に関する知見をはじめて包括的に整理することができたので、上記の研究目的をかなりの程度達成できたものと考えている。 なお、前年度に着手した外来種Polyandrocarpa zorritensisの研究は、本年度におおいに進捗した。高知県宇佐でおこなった野外調査により多数の成熟個体を採集し、種名が確定できたので、この成果を日本動物学会第64回大会で口頭発表した。
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