ザイモザンにエステル結合するヌタウナギ(Eptatretus burgeri)血清蛋白質の単離・精製に成功した。この分子は分子量115kDaと77kDaの二つのサブユニットが、S-S結合により架橋して一分子を形成していた。この分子構造は、顎口類C3のそれによく一致していた。115kDa鎖上にはチオエステル結合が存在し、この分子のアミノ酸組成はヒトC3のそれに酷似していた。さらに、トリプシンによる限定分解やザイモザンへの結合様式などから、この分子はヌタウナギC3と同定された。この分子のザイモザンへの結合反応は血清中の易熱性の成分や二価の陽イオンを要求するので、補体系第二経路の活性化機構と相同な反応系が、ヌタウナギにも存在すると予想された。次に、ヌタウナギ腹腔マクロファージを指標細胞に、またウナギ赤血球を標的物に用いたアッセイ系を確立し、ヌタウナギC3におけるオプソニン活性の有無を調べた。その結果、同分子がオプソニン活性発現のリガンドとして機能していることが示された。 さらに、ヌタウナギC3に対する抗血清をプローブとして、3本鎖構造(77kDa、72kDa、および30kDa)を有する同C3関連分子をヌタウナギ血漿から単離した。この分子は精製過程の後期に、2本鎖(105kDaおよび72kDa)構造から上記3本鎖構造に変換することが示された。105kDa鎖のN末端アミノ酸配列とチオエステル結合の存在様式を解析した結果、105kDa鎖は115kDa鎖の限定分解産物であることが強く示唆された。また、インタクトな本種C3では、1本鎖の前駆体分子が不完全なプロセッシングにより、見かけ上2本鎖様に行動していることが注目された。本知見はヌタウナギC3の原始性並びに特殊性を提示するもので、補体成分の分子進化との関連で興味深い発見である。今後、本研究成果を踏まえ、C3転換酵素の形成に参画する、C3以外の補体成分の解析が進行するものと期待される。
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