魚類は周囲の塩濃度の差異に関わらず、体液の浸透圧を海水の1/3程度に保っている。これまでにはおもにウナギやサケ等の広塩性魚類において研究が進展し、浸透圧調節に関わるホルモンの定量・レセプターの解析あるいは鰓などの浸透圧調節器官の超微細構造の知見などが蓄積されてきている。本研究は、このような研究とは趣を変え、個体レベルで浸透圧調節を捉え、生体内のさまざまな機構がどのように関連しあって浸透圧調節がおこなわれるのかを検討したものである。平成4年度(最終年度)には次のような結果が得られた。1.熱帯魚グッピーの環境塩濃度を徐々に上昇させると、海水に順応する。海水グッピーでは鰓の塩類細胞が肥厚し、その数も増えた。希釈海水でも同様の変化がみられた。腸、腎臓には変化はなかった。これらの器官は、組織学的側面からみる限り、同等に作用するのではなく、時間的あるいは機能的に序列があるのではないかと考えられた。2.アマゾン支流域原産のネオンテトラを希釈海水に移行すると、血液のイオンレベルが上昇し死亡する。しかし、一般の魚類が生存できない蒸留水にはよく適応した。希釈海水中でもネオンテトラの塩類細胞は変化を示さなかった。腸後半部には、吸収上皮高の高い特殊な形態がみられた。この種において塩類細胞が組織変化を示さない理由は不明だが、この細胞が塩濃度の上昇した環境下で浸透圧調節に関わることが裏づけられた。3.キンギョを海水に移行し、その耐性をしらべた。海水中では血液の浸透圧が急激に上昇し、20数分で死亡するが、10数分程で淡水に戻せば蘇生する。これから、キンギョの耐え得る血液浸透圧の上限を算定した。狭塩性淡水魚とされるキンギョの浸透圧の上昇率は、これまで報告のあるサケとは異なり、著しく速くまた高いことがわかった。高張環境下における淡水魚の体表の透過性は、広塩性魚に比べて高いと考えられる。
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