脊椎動物にみられる内部環境の浸透圧調節機構は、硬骨魚類によって始めて獲得された。海水魚や淡水魚などでは外界塩濃度の著しい差異にも関わらず、体液の浸透圧はほとんど等しい。本研究は、魚類の浸透圧調節機構の解明にとどまらず、脊椎動物全般にわたる基本的な調節機構の理解に何がしかの貢献を期待するものである。魚類の浸透圧調節機構については、ウナギやサケ等の広塩性魚類において研究が進展しており、浸透圧調節に関わるホルモンの定量・レセプターの解析、あるいは鰓などの浸透圧調節器官の超微細構造の知見などが蓄積されてきている。本研究のねらいは、最近の研究とは趣を変え、浸透圧調節を個体レベルから捉え、生体内のさまざまな調節機構がどのように相互に関連し、どのような序列でおこなわれるのかを検討するところにある。本研究から以下のような結果が得られた。1.ニジマスのストレスについて調べた。ハンドリングストレスにより血液電解質濃度に変動が生じた、実験の解釈に多大な誤差が考えられるので、実験魚の取扱いには特別な配慮が必要であることを確認した。2.グッピーの塩濃度を徐々に上昇させると、海水に順応する。浸透圧調節器官のうち鰓塩類細胞の活性化が認められた。希釈海水中でも同様の変化がみられた。鰓、腸、腎臓などの浸透圧調節器官は時間的・機能的に序列をもって作用することが推測された。3.アマゾン原産のネオンテトラは、他の魚類が生存できない蒸留水には適応したが、希釈海水中では死亡した。いずれにおいても塩類細胞は変化を示さなかった。塩濃度の上昇した環境では、この細胞の活性化が不可欠である。4.キンギョは海水中では血液の浸透圧が急激に上昇し死亡するが、淡水に戻せば正常のレベルに戻る。この実験から、キンギョの血液浸透圧の上限を推定した。高張環境下においてはサケなどの広塩性魚類とは異なり、体表の透過性が十分に高いと考えられる。
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