生物種間の系統関係や種内の集団構造の解析手段として、遺伝子レベルでの比較がきわめて重要であることは最近の多くの研究報告の示すところである。 筆者はこれまでアイソザイム多型とミトコンドリアDNA(mtDNA)の制限酵素断片多型からメダカ類の系統解析を行ってきた。その結果種内のおおよその構造や近縁種の存在が明らかになったが、それらの系統関係については未だ不明な点が多い。 本研究は、PCR法を用いてmtDNAの塩基配列を手がかりにメダカ類の種間および種内の系統の分岐の順序、分岐年代を推定するとともに、固定標本やすでに絶滅し標本の形でしか残っていないものとのDNAレベルでの比較のための基礎資料を作ることを目的として始まった。 本年度は塩基配列レベルの解析の基礎として、制限酵素断片の多型からmtDNAを指標とした日本産野生メダカ集団の詳しい解析を行った。その結果、次のことが明らかとなった。 (1)日本のメダカは大きく2つの集団に分かれる。すなわち、青森から日本海に沿づて丹後半島付近まで分布する集団(北日本集団)と、それ以外の地域の集団(南日本集団)である。 (2)南日本集団のハプロタイプは東北から長野県に分布する2グル-プ、南関東から東海、瀬戸内、山陰西部にかけて広く分布するグル-プ、山陰東部のグル-プ、西九州から沖縄にかけてのグル-プなどに分けられる。 (3)丹後、但馬地方のハイブリッド由来と思われる集団は、2つの異なるグル-プ、すなわち北日本集団型と南日本集団型からなっていた。
|