研究概要 |
本研究は、日本海を具体例として、縁海堆積物においては堆積サイクルがどの様にして形成され、それからどの様な古海洋学的情報を取り出せるかを究明する事を目的として行われた。以下に主な成果を述べる。(1)日本海深部から得られた第四紀堆積物は明瞭な明暗互層を呈するが、これは氷河性海水準変動に伴って日本海へ流入する海流の性質および量が変化し、それが日本海北部で冬期冷却により形成される深層水の量を制御し、最終的に底層水の酸化還元度が変動し、また湧昇流の変動を通して表層における生物を生産性が変動した事により形成された事を明らかにした。(2)こうした氷河性海水準変動に対する日本海海洋循環の応答様式は、日本海を外洋と結ぶ海峡の位置および深さに強く依存し、時代とともに変化した。そうした変化は、2.5Ma、5Ma、10,5Ma、15.5Maに起こったと考えられる。(3)こうした海峡の位置および深度の変化には、汎世界的海水準変動と地域的なテクトニクスの両方が影響を及ぼしていると考えられる。(4)日本海の様な縁海は、ミランコビッチサイクルに起因する様な短周期の気候変動、海水準変動に敏感に応答し、その結果は堆積サイクルとして表れる。しかし、堆積サイクルの成因は単一ではなく、縁海内における場所により、また時代により異なる。例えば、日本海が著しく閉ざされた時代(0〜2.5Ma、5〜10.5Ma)の日本海深部においては底層水の酸化還元度の変動に起因する明暗サイクルが認められ、それに生物生産性の変動に起因する生物源シリカ量の変動サイクルが重なる。一方、海峡がより広く、深くなり、日本海内で深層水が盛んに形成される様になると酸化還元サイクルはなくなり生物生産性サイクルのみになる。また、陸に近い所では生物源シリカ量の変動は、むしろ陸源砕屑物の流入量の変動に起因する様になり、陸域における気候変動を強く反映する様になる。
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