今年度は、西南日本外帯に分布する白亜紀の低温高圧型変成岩である三波川変成岩の野外における産状、特に構造的下位に産すると予想される四万十帯の付加体との関係を検討するため、紀伊半島中央部に奈良県東吉野地域および同半島東部の三重県度会町地域において詳しい地質調査を行なった。その結果、以下の新事実が明らかになった。1)東吉野地域および度会町地域において、つねに三波川変成岩が四万十帯の弱変成付加体の構造的上位に産し、両者は低角度スラストによって境される。このうち東吉野地域のものを津風呂スラストと命名した。2)紀伊半島中央部以東の外帯の地体構造は大きく改訂され、紀伊半島中央部の従来すベて三波川変成岩分布域とされた領域に四万十帯付加体が広く分布すること、およびその四万十帯が東方へ舌状に長く延び、三重県度会町まで続くことが明らかになった。3)度会町地域における三波川帯・四万十帯境界の形態は西に開いた馬蹄形をなし、東にプランジした軸をもつ背斜の発達が推定される。これに対して紀伊半島西部には逆方向の西プランジの軸をもつ背斜が推定される。4)紀伊半島の外帯は基本的にほぼ水平な地質構造で特徴付けられ、構造的下位から、四万十帯の付加体、三波川変成岩そして秩父帯の付加体が累重する。5)紀伊半島中央部において三波川・四万十帯間の、あるいは秩父・四万十帯間の地体構造境界が複雑な形態をとり、各帯が西南日本の中で極めて特異な分布パターンを呈するのは、紀伊半島を横断する東西方向の背斜・向斜構造と、その後におきた半島中央部のドーム状隆起による褶曲軸の対称的プランジの発達に起因するとみなされる。これらの成果の一部については、すでに学会において口頭発表あるいは論文として印刷公表した。
|