2年度にわたる本研究において、野外調査および室内検討を行なった結果、以下の事実が解明された。1)紀伊半島西部、中央部および東部のいずれの地域においても、三波川変成岩は四万十帯の弱変成付加体の構造的上位に産する。両者の間は本質的に低角度スラストによって境される。この事実は西南日本で初めて解明された。2)四国中央部あるいは東部において、川波川変成岩は構造的上位の秩父帯のジュラ紀付加体とほぼ水平な低角度正断層によって境されることが確認された。従って、三波川変成岩は上下を断層で境されたほぼ水平な板状地質体(ナップ)とみなされ、その構造的上位・下位はともに弱変成付加体によって占められる。3)低温高圧型三波川変成岩(7-8kbの圧力を経験している)は弱変成付加体の間に構造的に挟まれて産する(サンドイッチ構造)ので、上位および下位の弱変成付加体との境の断層は数kbの圧力差を代表することになる。4)西南日本における三波川帯とは、三波川変成岩の構造的上位に産するジュラ紀付加体が削剥され、三波川変成岩が直接地表に地窓として出現している領域を指す。5)三波川変成岩の地表における分布幅に対して、その地質体としての厚さは極めて薄く、2kmを越えない。このような三次元形態は三波川変成岩が沈み込み帯深部の変成場から地表へ上昇してきたプロセスと密接に関連しているとみなされる。6)低温高圧型三波川変成岩の変成・冷却年代から判断して、クラ・太平洋海嶺の沈み込み時に、付加体の深部が低温高圧の変成場から搾り出され、三波川変成岩として低圧領域に上昇・定置したとみなされる。以上の結果は、従来の西南日本の地体構造論の理解を一新するだけではなく、世界のコルディレラ型造山帯の形成プロセスの研究に重要な貢献を果たしたと考えられる。その成果の一部はすでに学会にて口頭発表し、また別欄に示した学術論文として公表した。
|