平成3年度には、北海道の白亜系から産出する貝形虫化石に基づき、白亜紀における本邦の古地理的な位置付け、貝形虫群集に認められる異時性等を明確にし、2編の論文として報告した。さらに、金沢市周辺に分布する大桑層から産出する貝形虫化石の解析結果に基づき、約120万年前に著しく強い黒潮が日本海へ流入したこと、それ以前に12〜9万年を1周期とする環境の変動があったこと等を明らかにした。 平成4年度には、仙台付近の第三系のうち、主として茂庭層からの貝形虫試料の採集に努めた結果、標本数がかなり充実してきたので、貝形虫群集の詳細を近く補足できる見通しを得た。仙台市南縁に分布する綱木層からは18属、29種の貝形虫化石が識別された。ここで特筆すべきは従来Cornucoquimba moniwensisとして更新統から報告してきたC.sp.が、典型的な moniwensisと共産することが確かめられたことである。C.sp.は不規則な網目状装飾をもつ点で典型的なmoniwensisとは異なる。このような2型が綱木層下部で生じるに至ったメカニズムとして、中新世末期(Messini-an)の寒冷化が想定される。この寒冷化にともない、moniwensisの生息場が浅海域へ広がり、そこで繁栄したC.spがその後の時代、少なくとも更新世には浅海域に存続していたと考えられる。このようなシナリオは現在の富山湾において、網目装飾をもつBradleya japonicaと装飾が痕跡的なB.nuda とが水深的に棲み分けている事例によっても裏付けられる。また、北海道の白亜系産貝形虫化石をさらに詳細に調べた結果、Krithe 属が函淵層群の最下部(カンパニアン)から出現しはじめることが明らかとなった。この Kritheの産出は、本邦最古の産出記録であり、この時代に貝形虫群集の変遷があって、新しい要素の出現した可能性が示唆され、今後の興味深い研究対象である。
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