研究概要 |
上部マントルカンラン岩とそれに随伴する層状〜ポケット状のハンレイ岩は,一般に,部分融解メルトと残留固相の化学組成を示さない.両者の成因関係(上部マントルプロセス)を明らかにするために,少量部分融解の際のメルトの挙動を検討した.本年度の研究では,(1)日高変成帯幌満カンラン岩体の残留固相と部分融解メルトを想定して行なった少量部分融解実験(出発物質:含水カンラン岩(MORB-Pyrolite)にハンレイ岩(Horoman-GBI)をサンドイッチ型に挟んむ)について,昨年にひきつづき少量部分融解メルトの挙動を解析した.また,(2)上部マントルカンラン岩の少量部分融解は,天然の実例としてカンラン岩中のマグマチャネル周辺の壁岩に認められ,ここでは日高変成帯のカンラン岩を検討した.その結果,以下の諸点が明かになった. (1)H2O不飽和の含水条件(P=10kb,T=950〜1175℃)におけるカンラン岩とハンレイ岩の両者の10kbソリダスの位置は,それぞれT=1050℃付近,およびT=950℃付近である.カンラン岩がソリダス直上(1050℃〜)で少量部分融解メルトを生ずるとき,ハンレイ岩は約50%のメルトを含む.また,角閃石の安定限界はカンラン岩とハンレイ岩で異なり,ハンレイ岩中の角閃石の安定限界はカンラン岩のソリダスより高温側(1050〜1075℃)にある.このことは,上部マントルで含水カンラン岩が少量部分融解を生じるとき,カンラン岩中の角閃石は分解するが,ハンレイ岩層中では角閃石は安定に存在しうることをしめす. (2)日高変成帯のカンラン岩中には,多数のマグマチャネルが認められた.その好例は,幌満カンラン岩中のウェプステライト岩脈やハンレイ岩岩脈およびペンケヌーシカンラン岩中のスピネルダナイト〜カンラン岩混在岩層などである.これらのチャネルの周辺では,少量部分融解メルトの涸渇や通過メルト付加によるカンラン岩の置換(replacement)が生じている.
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