研究概要 |
本研究では補助金交付以前の準備段階から単結晶試料を入手し,以前に行なっていた電荷密度波系での測定システムを再整備し,万全の準備をもって望んだ.しかし,研究を開始してみると,有機擬一次元物質特有の諸問題が予想外に我々の研究の進捗の妨げとなった. 1)試料は初期の段階では超伝導工学研究所の森初果博士より提供を受けていたが,途中より市販のTMTSFを用いた電解法による作成を我々自身で行なった.合成された試料は四軸X線回折計で評価したところ,所望の物質であることを確認した. 2)(TMTSF)_2PF_6の非線型電気伝導度(伝導度の電場依存性)の測定を行い,20mV/cm程度のしきい電場を持つ非線型電気伝導度を確認した.非線型電気伝導度(伝導度の電場依存性)の測定に並行して初めて広帯域雑音の測定を行い,SDWのスライディング状態でのコヒーレントヴォリュームの評価に初めて成功した.これによると,CDWに対して得られたのと同様の非常に大きな体積が得られている. 4)他の手段でこれらの巨視的コヒーレンスを確認するために'ac-dcの干渉効果の観測を目指して,インピーダンスアナライザーを用いた有限の直流バイアス下の交流伝導度測定を行なったが,低振幅での干渉効果は発見されなかった.その原因としては,ピン止めの機構がCDWと異なり2次であることなどが考えられる. 6)当初計画した,集団モードの低周波ダイナミクスの研究のためのマイクロ波伝導度測定システムを建設した.SDW系の伝導度測定に適用できるまでには至らなかったが,同システムを銅酸化物超伝導対の超伝導状態に適用し,極めて多くの成果を得た.
|