本研究の内容はナフタロシアニンの精製法と薄膜作製技術の開発、非線形光学特性の評価に大別できる。 ナフタロシアニンの精製に関しては、昇華法を中心に検討した。ナフタロシアニンは蒸気圧が低く試料の熱分解が生じない温度では実用的な速度では昇華しないことが分った。しかし、500℃程度でアルゴンガス流下で熱処理をすると、蒸着法により薄膜を作製する時に問題となる低沸点化合物を除去できることが分った。 ナフタロシアニンの薄膜作製には真空蒸着法を用いた。通常の抵抗加熱型の真空蒸着装置を用いて10^<-6>Torr台の真空中で蒸着すると良好な膜が得られることが分った。また、この時に蒸着基板の温度を制御することにより非晶質膜や微結晶質膜を作製できることを見出した。 非線形光学特性の評価には電場変調分光法と第3高調波発生法を用いた。電場変調分光法による測定では、いずれのナフタロシアニンも同一の中心金属を有するフタロシアニンと比較して大きな信号強度を示し、π電子が広がることにより非線形光学感受率が増加していることが確認された。また、H_2ナフタロシアニンに関しては、蒸着条件を違えて作製した微結晶質膜と非晶質膜では微結晶質膜の方が大きな非線形光学特性を示し、分子間の相互作用が非線形光学特性に影響していることが明らかになった。ナフタロシアニンでは、異なる結晶多形の試料が得られなかったので、結晶多形間での分子間相互作用の相異の研究は行わなかったが類似化合物の銅フタロシアニンを用いて測定を行い、結晶多形の違いが非線形光学特性に影響することを明らかにした。第3高調波の測定からはナフタロシアニンフタロシアニンとの間に電場変調分光法ほどの差が生じなかった。これは、ナフタロシアニンの基本波での吸収が関与していると考えられ、吸収の起源の解明が今後の課題として示された。
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