研究概要 |
代表的なイオン結晶であるNaClに室温で電子線を照射して形成されるNa超微粒子は2.10eV付近にピークをもつ特徴的な光吸収帯を示す。このピークはいろいろな粒径の微粒子からの寄与を含んでいるためこの光吸収帯を小さいエネルギー幅で強く励起するならば特定の粒径による吸収ピークに対するホールバーニングに類似した効果が期待される。本研究はこれを追究することを目的として以下の研究計画に従って遂行されたものである。 (1)NaCl単結晶に電子線を照射した後,熱処理によってNa金属相を形成する。 (2)局在電子中心からNa金属相の形成にいたる過程を光吸収スペクトルの解析により追究する。 (3)パルスレーザー励起による測光システムを構築する。 (4)強励起による光吸収スペクトルの変化を追究する。 項目1),2)については電子線照射(大阪大学・産業科学研究所のリニアックによるパルス電子線を利用)後の試料を適当な温度(350-520K)において熱処理し,Na超微粒子の形成に至る各ステップにおいて光吸収スペクトルを測定した。得られたスペクトルをFおよびその複合中心に分離解析した結果,F中心の複合体の中で4個のF中心が(111)面内に集合した(F_4)_1中心がNa超微粒子形成の核となっている可能性が高いこと,Na超微粒子による光吸収帯(C帯と呼ばれる)は従来1つのピークとされいてたが,その形成の初期においては2つのピークが存在することが明かとなった。 項目3)については本研究期間の終盤になってようやく励起光源の不安定性が解決し,本格的なデータが得られるようになった。項目4)に従って,強励起光(562.000±0.001nm)とプローブ光を同時に)照射したときと,プローブ光のみのときとで光吸収スペクトルを比較した。その結果励起光強度を3.2kW/m^2から試料が破壊する直前の48kW/m^2まで変えた場合,励起光に対してプローブ光を遅らせた場合(約1-10nsの範囲),いずれの場合においても強励起による光吸収強度の変化(非線形効果)は観測されなかった。これよりNaCl中に形成されたNa超微粒子による光吸収帯については強励起による効果は得られないという結論に達した。この原因はまだ不明であり,今後の課題となった。 本研究においてはさらに,熱処理をしないNaCl(電子線照射のままのNaClはF中心やその複合中心を含む)についても同様の実験を試みた。その結果,この場合は強励起による吸収係数の減少(非線形効果)が観測されている。
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