研究概要 |
圧電アクチュエ-タの変位特性に見られる大きなヒステリシスを減らし,同時に線形特性を向上させるため,以下の研究を行った. アルコキシド法により合成した粒径数nmのPZT微粒子を600℃で5時間仮焼することにより結晶化する.従来はこの試料を大気中でプレス後焼成してセラミック試料を得ていたが,ヒステリシス特性の再現性があまりよくなかった.そこで,今回はホットプレス,HIP(Hot Isostatic Pressing)による焼結法を試みて,焼成結果を比較検討し,低ヒステリシス特性を再現性よく得る条件を調べた. 合成した原料粒子の大きさは直径数nmであるが,焼成によって数百nmにまで成長することがSEM観察の結果すでに分かっている。この大きさは従来のPZTセラミックスの構成粒子の粒径と比べればかなり小さいとはいえ、バルクの性質を示すに十分な大きさである.このようなサイズの微粒子が顕著な低ヒステリシス特性を示す原因はまだ分かっていないが,格子欠陥等により強誘電的な分域壁の移動が妨げられるためではないかと考えられる.これを明らかにするためTEM観察を試みた.その結果,数百nmの大きさの粒子の内部では結晶格子の向きが揃っているにもかかわらず出発時の粒子の大きさ(数nm)の痕跡が残っていることが分かった.この痕跡任域では格子欠陥の濃度が高くなっていることが考えられることから,これが分域壁移動の障害となっているものと推定される. 今後は,さらに分域壁近傍における格子欠陥密度の分布や分域構造の直接観察を目的として研究を進めるとともに,走査トンネル顕微鏡への応用を検討していく.
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