研究概要 |
結晶のサイズを10nmのオーダーに近付けると,バルクのときとは異なる物性を示すことが報告されている.これをサイズ効果と呼ぶ.本研究は,強誘電体微粒子におけるサイズ効果研究の過程で得られた,結晶化温度,誘電特性にみられるサイズ効果および微結晶作製技術に関する知見を,PZT圧電アクチュエータについて解決すべき問題となっているヒステリシスおよび非線性の低減に役立てるべく行われたものである. 鉛,チタン,ジルコン各アルコキシドを有機溶媒に溶かした後加水分解すると,粒径数nmのPZT微粒子が得られる.この微粒子は,合成直後はアモルファス状態であるが,600℃で数時間仮焼することにより結晶化する.この温度はバルクの結晶化温度(1280℃)と比べて著しく低く,一種のサイズ効果といえる.この温度ではまだ鉛の蒸発が生じないので,結晶の組成設計を容易に行うことができる.この微粒子をホットプレス,あるいはHIP(Hot Isostatic Pressing)によってセラミックとする.得られたセラミック(微粒子セラミック)は,従来製法のものと比べて顕著な低ヒステリシス特性(〜1%)を示す.構成PZT微粒子のサイズは,SEM観察によれば数百nmであり,従来の固相反応法により得られたPZTセラミックの構成粒子の粒径(10μm以上)と比べればかなり小さいが,この程度のサイズではまだ強誘電的分域壁の移動が可能である.ヒステリシスが減少するためには強誘電的分域壁が容易に移動できなくなることが必要である.高分解能TEM観察によれば,微粒子セラミックを構成する微粒子一個一個は単一の結晶になっていると考えられるが,その内部に数nmの微細構造が観察され,出発原料微粒子の構造が保存されていると考えられる.微粒子アクチュエータで観察される低ヒステリシス特性は,この超微細構造により得られたものと推定される.
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