ガリウムヒソをシリコンの上に成長させた時、両者の熱膨張係数差により生じる歪は成長後冷却過程で転位を発生させたり素子の動作中に転位を増殖させたりして素子特性を著しく劣化させる。この問題を解決するため両者の間に隙間を作ったUCGAS(Undercut GaAs on Si)構造を新たに提安し、その熱歪及び転位の研究を行なうと同時に発光ダイオード作製に応用した。その結果、1.UCGAS構造にすることによって熱歪は低減はするが塑性変形がすでに起こっているので完全には緩和されない、2.UCGASを熱処理すると転位が著しく減少すると共に歪も緩和する、3.UCGAS上にガリウムヒソを再成長すると転位はさらに低減する、ことが分かった。この改善の原因は理論解析により、1.UCGASにおいてはガリウムヒソ層が自由に動ける状態になっていること、および2.高密度の格子不整合転位が閉じ込められているヘテロ界面が除去されていること、によっていることが分かった。 そこでこれらの結果をもとにUCGAS上に発光ダイオード構造を再成長し素子を作製した。作製した素子は発光強度が従来型のメサ型に比べ10倍以上になった。さらに定電流注入による寿命試験を行なった結果、メサ型は数時間の動作でも劣化が認められるのに対しUCGAS型は1000時間以上動作させても著して劣化は見られなかった。この寿命はこれまで報告されたすべてのシリコン上ガリウムヒソ系発光素子の中で最も長いものであり、初めての実用レベルの値である。さらに、その劣化メカニズムの研究を進め、劣化は残留歪と転位密度に依存するがその依存性は残留歪の方が大きいことがわかった。これらの結果を基に劣化メカニズムのモデルを提案し、劣化の原因が転位の増殖によっていることを明らかにした。以上の内容を論文として発表して、本研究を終結させた。
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