1.前年度に作成および購入した抵抗測定用クライオスタットおよびプログラマブル定電流発生器を使用して、主としてY系およびBi系銅酸化物超伝導体の電気抵抗を精密に測定した。これは、焼結体試料のTcや超伝導転移巾の評価を通して電子ビーム蒸着用の最も適した蒸発源の開発を目指したものであるが、Y系については現段階ではほぼ満足すべき結果が得られた。これに対してBi系では試料内のとりわけ酸素濃度の分布がなお問題点として残ったが、還元気体中での再処理や急冷操作などを組み合わせて試料の特性向上を試みた。 2.透過電子スピン共鳴については、母体金属膜上に超伝導体膜を生成させる際や、超伝導ー常伝導界面で最適な結合度を得るためには、シングルソースを用いた蒸着法の適否や蒸着時の真空度と分圧など、改善を要するいくつかの問題点が指摘された。これらの問題を考慮しながら、今後も継続的な測定を行なう必要がある。 3.マイクロ波吸収の実験に関しては、本年度の計画に基づいて微小直流電圧計を購入し、dcモードによるマイクロ波検波の感度と安定度の向上を実現した。前年度のTl-2223系の残留吸収の実験で指摘された問題点を解明するために、今年度は磁場Ha中でのマイクロ波吸収の時間的な緩和を測定した。その結果、磁気吸収は磁場の増大とともに増大した後、一定磁場下では逆に減衰していくことが観測され、マイクロ波吸収が磁束密度Bではなく磁化|M|に比例することが示唆された。緩和は時間の対数に比例して生じ、緩和率から求めた磁場中のピン止めエネルギーU_0はHa^<-1/2>に比例し、2次元格子モデルを支持した。これらの結果は、マイクロ波電流によって誘起された磁束の粘性運動の重要性を示しており、今後は同一試料における磁化測定との比較も行なって、マイクロ波と超伝導体との相互作用を外来金属の効果も含めて研究していく予定である。
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