研究概要 |
我々はこの数年間,吸着原子ー基板間の電子遷移の様相の被覆度による変化をLCAO的なモデルを用いて系統的に研究している。平成3年度はそれまでの成果に立って,吸着原子間の有効相互作用の被覆度依存性について研究した。従来、吸着原子間の相互作用は,双極子相互作用による斥力であるとされてきたが,最近のLEED,EELSの実験から,高被覆度では引力となるという主張が為され,問題となったものである。この問題は,多吸着原子系の吸着機構を明らかにする上で,基本的なものであるが,未だ理論的検討は殆んど為されていない。我々の理論は,モデル計算ではあるが,吸着原子の不規則配列を考慮できる枠組みとなっているため,上述の問題を取り扱うのに適している。 吸着原子間の有効相互作用としては,従来考えられてきた双極子相互作用の他に,吸着原子間の電子遷移に起因する“凝集的相互作用"が考えられる。後者は引力的な性質のものである。被覆度の増加と共に,双極子モ-メントは通常減少するので,前者は減少し,逆に後者は,オ-バ-レ-ヤ-バンドの拡がりのため,被覆度と共に絶対値が増加するということが,予想された。このことを具体的な計算で確かめるために,基板を1次元金属にとり,各種パラメ-タを,アルカリ原子/金属の場合に設定し,数値計算を行った。その結果,双極的相互作用は被覆度と共に急激に減少し,凝集的相互作用は(絶対値)ゆるやかに単調増加する。適当なパラメ-タを選ぶと,被覆度0.7〜0.8あたりで全相互作用が負(引力)となることが分かった。これは,Tochihara等の実験結果と定性的に一致する。この結果については,平成3年9月の日本物理学会において発表し,現在,論文としてまとめている段階である。次の目標はこの計算を2次元基板の場合に拡張することであり、現在準備中である。
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