最近、赤外光領域までの感度もつ新しい複写感光材料が開発され、応用面での新しい展開が期待されている。本研究では、有機電荷移動錯体の一種であるDTPPおよびハロゲン架橋金属有機錯体を対象として、高い光援答感度をもつための要因を明かにし、電子ープロトン系の新しい光電導デバイス可能性を探った。本研究計画の2年間において行った実験の結果に従えば、分子内および分子間に強い電荷移動相互作用および分子間の水素結合が微妙に相互作用し合うことにより、自動的に電荷解離が生じていることが判明した。この結果は本研究者らがこれまでに推進してきた"電子ープロトン相互作用を活用した物性の創造"の視点から予測していた結果でもある。これまでの成果を整理すると次のようになる。まず、DTPP単結晶については、1)偏向反射スペクトルを測定し、結晶構造解析の結果と対比させることにより、電子移動に関する詳細な情報を得た。2)光伝導の励起スペクトルを測定し、それを反射スペクトルと比較することによって、光伝導と電荷移動との関連を明かにした。3)光伝導の電場強度や結晶軸依存性空から判断すると、水素結合が光伝導に重要な役割を演じていることが解る。その機構を説明するためにプロトン変位による電荷移動励起子の自動イオン化モデルを提唱した。4)上記の結果を基盤として分子改良を行い、成功した。5)この新しい分子を用いて錯体を合成することができたただし、単結晶育成はまだ成功していない。また、ハロゲン架橋金属有機錯体については、レーザ励起下の過渡赤外光吸収スペクトル測定を行い、光伝導の新しいメカニズムとしてのソリトン生成を実験的に確証した。今後は、これらのの基盤に立って、応用上欠かせない薄膜での物性測定を行い、電荷解離の高効率化への条件を明確にする。また、これまでの実験結果を踏まえて、光伝素子を試作しその性能評価を行う。
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