研究概要 |
本研究は2か年計画で実施されたもので,本年度はその最終年度に該当する.前年度では主として球面波音場に置かれた球に働く異常負圧効果に関する研究を行い,その生成の原因がベルヌーイの定理を2次の微小量まで拡張することにより説明できることを明らかにした.本年度は,現在超音波の工学的・医学的応用に最も多用されている,円形平面振動子から放射される音場における超音波の異常負圧効果について理論的・実験的に研究を行った.まず,超音波の異常負圧効果を理論的に記述できるようにするため,従来提案されている種々の音響放射圧理論を原理的レベルまで遡って検証し,放射圧のいかなる成分が異常負圧効果に寄与する可能性があるかを検討した.ついで円形平面振動子の近距離音場に置かれた球に作用する音響放射圧を計算するための理論を開発した.この理論にもとづいて,まず剛体球について負の放射圧が発生する条件を数値解析によって明らかにし,球物質と媒質の密度比,音源からの音響学的距離,球の音響学的大きさ,円形振動子の直径の関数として,その生成領域図を作製した.一般的に軽い物質の小さい球において,音源に近い領域において顕著な異常が発生し,音源の大きさはあまり関係がないことが明らかとなった.ついで有限の弾性をもつ固体球について同様の解析を行った結果,弾性振動の共振に対応して,放射圧の周波数特性に一連の極大および極小を生ずるものの,異常負圧効果が生じる条件は,剛体の場合と基本的には変わらないことが判明した.実験は無響水槽で,振動数0.2〜3MHz,球として種々の材質からなる直径0.5〜3mmのものをナイロンの単繊維で二本吊りにすることによって行われ,理論との良い一致を見た.超音波発生用プリアンプの電源として申請備品の直流電源を用いた.
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