本研究では、世界で唯一の大型VHF帯アクティブフェーズドアレイレーダーである京都大学MUレーダーのためにスペースデブリ観測専用モードを開発し、これを用いてレーダー散乱断面積(RCS)時間変動の観測を行なった。微小なデブリからの散乱電波は長波長のレーダーではマイクロ波帯に比ベて極めて微弱になるため、VHF帯レーダーをデブリ観測に用いるのは極めて不利であるが、MUレーダーの高出力と大開口により米国宇宙指令部による定常観測に用いられるレーダーと同程度の感度が得られている。 本研究で開発したデブリ観測モードでは、MUレーダーの持つ高速ビーム走査能力を最大限に活用して、複数のアンテナビームを天頂付近に密集配置し、隣接ビーム間のエコー強度比から標的の位置を正確に決定することができる。その結果、レーダー本来の分解能の数十分の一に当たる200mの高度分解能と0.1゚の角度分解能を得ることに成功した。 MUレーダー観測においてはほとんどのデブルに対して低周波近似が成立するため、RCS変動からデブリの概略の形状に関する情報を得ることが可能である。観測の結果、小さなデブリの方が大きなデブリに比ベて激しいRCS変動を示すことが明らかとなり、従来の衝突解析などにおいて仮定されていた金属球とは異なる偏長な形状の物体が卓越することがわかった。観測される物体形状を定量的に推定するため、楕円体を仮定したRCS変動のモデル計算を行ない、これと観測結果を比較することにより、平均的なデブリの体積が同じRCSを持つ金属球の約半分以下であることが示された。これはデブリ防御壁の設計などにおいて重要な資料になると期待される。
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