本研究は、翼の層流化制御にとって重要な、外乱に対する境界層の応答に関する基礎的な研究である。前年度は、後退翼における前縁(アタッチメントライン)境界層のコンタミネーションの機構の理解に不可欠な、上流から流下する強い渦(翼根から伝わる乱流変動を模擬)に対する境界層の応答を実験と数値シミュレーションにより詳細に調べた。本年度は、この問題に加えさらに、弱い外乱環境において境界層遷移の始まりを支配するT-S波動の励起に関する数値実験を行った。以下に得られた主な知見を述べる。 まず、強い撹乱による境界層遷移については、壁面リブレットが遷移に与える影響を調べ、乱流構造の発達に導く壁近くの縦渦がスパン間隔を7%程度増し、かつ壁近くの変動強さも同程度抑制するなどの効果が観察された。ただし、その場合でも遷移の進行は遅れない。 次に、T-S波動の励起に関しては、外乱の周波数fが線形安定性理論の中立曲線の下分枝の十分下方にあり高調周波数2fが増幅周波数範囲あるいはそれに近い場合には、周波数fの急減衰T-S波動に加え、2f周波数のT-S波動が同時に励起されるという非常に興味深い結果を得た。これは、気流中の乱れが一般に減衰の遅い低周波変動からなることを考えると、境界層遷移の予測にとって重要な結果であると思われる。
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