炭素鋼JISS35Cに窒化チタン(TiN)を物理蒸着法(PVD)および化学蒸着法(CVD)で被覆した試料を作製し、被膜の強度と密着性の関係を明らかにすることを通じて、被覆処理材の強度特性に及ぼす被覆膜の影響について検討した。得られた主な結論は以下の通りである。 1.スクラッチ試験の結果、PVD材は被膜の曲げによって生ずる貝殼状剥離であり、CVD材は被膜に座屈による剥離であった。被膜の密着強度はPVD材の方がCVD材より大きい。 2.被膜の密着強度と被膜の割れ開始ひずみとの大小関係に相関性は無く、被膜自身の強度と密着性を統一的に評価できない。 3.被覆材の全ひずみ制御低サイクル疲労試験結果より、高ひずみ振幅域では被覆材の疲労寿命は裸材のそれよりも低下するが、低ひずみ振幅域では逆に向上する。この逆転を生ずるひずみ振幅は被膜の作製方法によって、また被膜の厚さによって異なる。 4.被覆材の疲労強度の低下は被膜の割れが切欠き効果として作用し、母材部のき裂発生を誘起する為である。この切欠き効果は被膜厚さの影響を受け、また被膜の密着強度とも関係する。 5.被膜割れの疲労強度に及ぼす影響を検討する為に、引張りにより被膜の割れを導入した試験片を作製し、大気中及び3.0%NaCl中で片持ち回転曲げ疲労試験を行った。その結果、被膜割れ導入材の疲労寿命は被覆材のそれよりも低下することは勿論、裸材の疲労寿命よりも低下することが明らかとなった。この低下率は腐食疲労よりも大気中疲労の方がより顕著である。 6.被膜の割れは切欠き効果として作用してき裂の発生を早め、さらに割れに沿って発生した複数個のき裂の合体によって大きなき裂に成長し、疲労寿命を大きく低下させる。
|