金属材料の表面改質法の一つとして注目されている物理蒸着法(PVD)や化学蒸着法(CVD)によるセラミックス被覆処理は耐熱性、耐食性、耐摩耗性に優れていることから、機械構造用部材に広く応用されることが期待されている。セラミックス被覆処理材の強度問題については研究が少なく、とりわけ強度設計に反映するための強度評価については十分な研究が行われていない。本研究では炭素鋼に窒化チタン(TiN)をPVDおよびCVD法で生成した硬質薄膜を被覆した試料を用いて、スクラッチ試験およびX線残留応力測定を通して薄膜の特性並びに密着性を評価し、ざらに被覆材の静的および疲労強度特性を明らかにした。得られた主な結果は以下の通りである。 1.スクラッチ試験より得られた被膜の密着性はPVD法とCVD法で異なり、また剥離の機構も両者で異なる。密着性は前者の方が優れているが、被膜自身の割れはPVD法の方が容易に生ずる。静的引張り試験による被膜の割れ開始ひずみは被膜生成方法によって異なり、また被膜厚さにも依存する。密着性と被膜割れ挙動とは対応しないことから被膜処理の目的によって被膜強度の評価方法を検討する必要がある。 2.被膜内部には顕著な圧縮残留応力が存在し、これはPVD被膜の方がCVD被膜よりも大きい。また、被膜下部の母材部には引張残留応力が存在するが、被覆処理材の強度特性に影響を与える程の大きさではない。 3.被覆処理材の疲労強度試験を実施し、未処理材のそれと比較検討した。被覆処理材の疲労寿命は応力負荷様式並びにひずみ振幅の影響を受けて変化し、未処理材に比較して向上する場合と低下する場合がある。疲労寿命を支配する因子は被膜の割れ挙動であり、疲労過程中被膜の破壊を生じない条件では疲労寿命が向上する。一方、被膜が破壊した場合はこれが切欠き効果として作用し、母材のき裂発生を誘起する。 4.被膜内に存在する欠陥が疲労強度に及ぼす影響を検討するために、被膜割れを導入した試験片を作製して、大気中および腐食性環境下で疲労試験を実施した。被膜の割れは疲労強度を大きく低下させ、未処理材の疲労寿命よりも大幅に低下させることから、被覆処理材の強度部材への適用に十分な配慮が必要である事を指摘した。
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