研究概要 |
平成3年度は,被覆薄膜の残留応力の評価法がまだ確立されていないことから,まずその可能性が最も高いとされているX線応力測定法を熱CVD法によるTiC膜に適用し,その可能性を検討した.その結果,TiC膜の残留応力は従来の鉄鋼材料と同様にSin^2ψ法が適用でき,特性X線と回折面にはMnKα線による(400)面とFeKα線による(331)面が採用できる.また,熱CVD法によるTiC膜は特定の結晶方向に成長するために,ある特定のψ角度範囲でしか回折線が得られないので,測定精度は鉄鋼材料におけるものよりは若干劣るが,TiC膜内には1ー5GPaと大きな圧縮残留応力が発生することが明らかとなった.次に,被覆膜の残留応力の支配因子を解明するために,TiC膜の膜厚や基材厚さが残留応力値に及ぼす影響について調べた.その結果,膜内残留応力は基材厚さが同じである場合には膜厚が厚くなるほどその値が大きくなる.また,膜厚が同じであるある場合には基材の厚さが厚くなるほど残留応力値は大きくなり,基材厚さが約10mm以上になるとその値もほぼ一定値に近づく傾向にある.しかし,その値は膜厚に依存しており,その厚いものの方が大きくなる.これらのことから、被覆膜内の残留応力値は基材の力学的拘束条件により支配されることが明らかとなった. 一方,残留応力が材料の各強度に影響を及ぼすことはよく知られていることから,先に求めたTiC膜内残留応力がその密着強度に及ぼす影響について検討した.その結果,TiC膜の密着強度は膜厚や基材厚さによらず,膜内の圧縮残留応力にほぼ比例して高くなる.また,その強度が膜からのX線回折強度分布曲線の半価幅にも比例する.これらのことから,CVD法によるTiC膜の密着強度は基材と膜材の熱膨張率の差により生ずる巨視的残留応力と膜成長時の微視的ひずみ支配されることが明らかとなった.
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