研究概要 |
本年度は実用的見地から,TiC膜をCVD法によりコーティングした工具鋼(SKH51)につき,膜内残留応力が膜の耐摩耗特性に如何なる影響を及ぼすかを検討するために,以下のような実験を行った. まず,TiC膜の耐摩耗特性を評価するために,工具鋼につきTiC膜を被覆したもの,焼入れ・焼戻したもの,また被覆条件で熱処理した3種類の試験片を準備した.これらにつき,転がり疲労試験を実施し,その試験過程の各段階で,膜内残留応力や表面弾性波の変化ならびに膜のはく離やピッチングなどの損傷評価を行った.その結果,被覆鋼は転がり疲労過程に膜のはく離が生じるが,その繰返し数は同じヘルツ応力下であっても,膜内圧縮残留応力の大きいものほど大きい.また,被覆なしの鋼で,被覆条件で熱処理した鋼と焼入れ・焼戻し鋼では,被覆鋼と同じヘルツ応力下であっても,前者では繰返し初期に転動面が塑性変形して,凹部が形成されるが,後者では,被覆鋼と同様に転動面に塑性変形は認められない.しかし,焼入れ・焼戻し鋼でも被覆鋼と同じ繰返し数で転動面を比較すると,それにはピッチングと呼ばれる凹凸が観察され,転動面の損傷度は被覆鋼に比べて大きくなる. また,被覆膜内の初期圧縮残留応力値は繰返し初期に減少するが,ある繰返し数で圧縮値を増した後に,再び減少し,初期値の約半分程度になる段階で膜のはく離が観察された.一方,超音波顕微鏡による表面弾性波の音速も,残留応力の変化に対応した変化挙動を示し,圧縮残留応力が減少(引張成分が増加)すると音速は増し,圧縮成分が増すと音速は減少し,圧縮応力が再び減少して膜のはく離が生じる繰返し数になると音速も大きく減少する. 以上のことから,TiC膜は転がり疲労に対して有効であり,X線残留応力や音速測定から膜のはく離損傷評価が可能なることがわかった.
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