研究概要 |
本年度は,前年度に引続き,被覆膜の実機への応用を念頭に,繰返し熱衝撃による膜の密着強度,フレッチング疲労損傷に対する被覆効果について検討するために以下の実験を行った. 切削や鍛造用工具では,その加工時に加工熱が発生するために,それを防止するために冷却水や油が供給され,そのため,工具先端部などでは,加熱・冷却が繰返される,いわゆる熱サイクルを受けることになる.そこで,TiCを被覆した工具鋼(SKH51)につき,この条件を模擬した繰返し熱衝撃試験を実施し,膜の特性変化やはく離,き裂の発生状態を調べた.その結果,TiC膜を大気中加熱すると,その表面層にTiO_2の酸化膜が形成され,膜成分が異なったものとなる.また,熱衝撃により膜にき裂が発生するが,温度が高いとその領域にはく離が生じる.さらに,繰返しとともに密着強度や硬度が減少する.これらのことから,TiCを被覆した工具においては加工時の温度管理に十分注意する必要があることが明らかとなった. フレッチング疲労は面圧下で接触面が相対すべりするような部分で発生するが,その防止策として,その部分の摩擦抵抗や圧縮残留応力の導入など考えられている.そこで,これらの疲労寿命に対するTiC被覆膜の効果を検討した.その結果,通常疲労では,その寿命に被覆処理の効果はなく,むしろ低下させる.しかし,フレッチング疲労においては,膜の存在がその寿命を長くする.これは,TiC膜内に存在する高い圧縮残留応力と膜自身の耐摩耗特性の効果によるものであることが明らかとなった. 以上のことから,熱CVD法によりTiC膜を被覆した材料を熱環境下で使用する場合には,使用温度により膜の組成が変化するために,膜の強度特性が変化する.また,TiC膜の耐摩耗特性や圧縮残留応力はフレッチング疲労損傷を低減させることがわかった.
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