研究概要 |
本年度は基材として低炭素鋼およびアルミニウムを用い,レ-ザ溶射により軟鋼およびステンレス鋼の皮膜を作製し,膜残留応力の特性を調べた。溶射膜は単一層であり,それぞれ2種類の厚さ(0.25〜0.63mm)の膜を同意し,X線応力測定にはFaKα特性X線を用いた。軟鋼膜およびステンレス鋼膜に対してそれぞれ(211)および(311)回折面を用いることによって残留応力測定の可能なことが明らかになった。 まず,溶射膜の結晶の配向性を調査したが,多少の配向性はあるものの,いわゆるPVD法による薄膜に存在するような強い配向性は見られなかった。すなわち,これらの金属のレ-ザ溶射膜に対しては従来の応力解折法としてのsin^24法の適用できることが明らかになった。 溶射膜中には主として溶射材料に存在して決る引張残留応力の発生することが明らかとなった。ステンレス鋼膜で+100〜+160MPa,軟鋼膜で-15〜+35MPaであった。 次に,溶射被覆した材料を均一に加熱冷却することによる膜残留応力の変化挙動の調査を行った。十分な高温で数時間加熱して冷却することにより,膜残留応力は圧縮側に変化し,最終的には基材と膜の熱膨張係数の差に基づいて評価される残留応力値となって安定することが明らかになった。すなわち,軟鋼基坂上のステンレス鋼膜は約+120MPaの引張応力,アルミニウム基板上のステンレス鋼膜は約-80MPa,またアルミニウム基板上の軟鋼膜は約-40〜-80MPaへと変化して安定した。 次年度ではTiからTiNへの傾斜機能膜を作成して残留応力を調査する予定であり,そして,いかなる層の組合せが最適な膜残留応力状態になるかについて検討を進める予定である。
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