昨年度はレーザ溶射により軟鋼およびステンレス鋼の金属材料を溶射材料として溶射被膜の残留応力測定および加熱処理による残留応力の変化挙動を観察した。これに続いて本年度はプラズマ溶射法を用いて低炭素鋼基材の上にまず中間層としてNiCrを、その上にNiCrとアルミナの混合比を変えて2層、3層および5層の傾斜組成膜を作成した。最上層をアルミナとしてこの層の残留応力に及ぼす傾斜化の影響を調査した結果、いずれの系においても引張残留応力が観測されたものの、その値は130MPa〜200MPaであり、傾斜化によって系統的な差は認められなかった。また、973Kまでの加熱処理によって表面残留応力の際だった変動はなく、1173K加熱で引張残留応力がさらに上昇する傾向がみられた。これは被膜と基材の熱膨張係数差による残留応力の予測とはその傾向まったく異にするものであり、セラミック膜の場合は金属被膜の場合と同様な説明することができないことが明らかになった。 また、レーザ溶射法を用いてTiN膜を作成した。基材としては低炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウムおよび黒鉛を用い、基板の熱膨張係数や熱伝導度などの物性値の違いが膜の残留応力値に及ぼす影響を調査した。この結果、溶射TiN膜には50〜100MPaの引張残留応力が存在し、応力値の基板の種類による系統的な依存性は認められなかった。さらにこの表面をダイヤモンド砥石で研削仕上げしたが、研削により残留応力はほぼ無応力に近くなり、従来のセラミックスに対する結果のように研削は残留応力を圧縮側に移行させることがわかった。 今後溶射膜の構造に調べて、とくにセラミック溶射膜のX線的残留応力の物理的意味を究明し、さらに、組成を傾斜することのメリットを熱衝撃試験を対象にして実験する予定である。
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