人間の脊柱は多数の脊椎と椎間板の連結機構で構成されている。椎間板は、脊椎間の緩衝機能として、体幹(脊柱)の荷重を支持する支持性、脊髄や神経要素を守る神経保護性、体幹の運動を容易に行うための可動性といった機能をあわせもつ。また、椎間板の構造は、コラーゲン繊維で補強された異方性弾性の富んだ軟組織の線維論とゲル状物質からなる髄核で構成された複合構造体である。特に腰部椎間板は大きな荷重負担能力を有し、その負荷形態や可動様式は複雑きわまる。そのためか、臨床的に見ても障害頻度の高い部位でもある。今や現代病として社会的問題となっている腰痛(Low Back Pain)の主因の一つに、椎間板の機能障害がある。 本研究では、特に疾患の頻度が高い腰部椎間板に焦点を当て、その力学的な機能を解明するとともに、機能を代行する人工構造物を開発するための設計指針を明らかにすることにある。まず、屍体標本の腰部椎間板を用いて、繰返し引張・圧縮、ねじり、屈曲試験を行った。そして、さまざまな負荷様式による腰部椎間板の静的負荷応答特性を確認した。次に、椎間板内部構造の力学的特性を確認するため、局部的な弾性率を推定する手法を検討した。その結果、前例のない椎間板横断面圧縮弾性率分布を示すことができた。さらに、変形応答に及ぼす構造学的要因や材料学的要因を実験と三次元有限要素法シミュレーションにより究明した。加えて、生体内椎間板の変形状態やひずみ分布を推定する手法を検討し、生体内椎間板の部位によるひずみ分布や形状の特徴を明らかにした。それらの実験や計算の結果から得られた椎間板の力学的特性を整理し、椎間板の力学的機能を代行することを想定した人工構造物(人工椎間板)の構造設計、材料設計を行い、新たな人工椎間板を提案した。
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