機械構造物の強度評価のためには残留応力の把握が不可欠であるため、実物中の残留応力の非破壊的な測定は材料評価の主要課題の一つである。これに関して最も有望視されている方法は、超音波の音速や偏り方向が応力によって変化する現象を利用する音弾性法による非破壊残留応力測定では、スペクトラム解析測定とせん断応力積分を使用する方法が有効と考えられる。 本研究ではこのような音弾性スペクトラム解析法の実用化をはかるために、2種類の切欠き試料の応力分布と2種類の残留応力分布の測定にこの方法を適用して以下の成果を得た。 (1)測定の自動化と波形のデジタル処理により測定の安定化をはかったため、振幅スペクトラムによる応力測定の精度が向上した。 (2)特に偏り方向の測定に改善を加えたためにせん断応力成分の測定精度が向上し、せん断応力積分法を適用して垂直応力成分を分離決定することが可能となった。 (3)切欠き底部を含む試料境界付近についても、小型トランスデューサによる応力測定が有効であることを確かめた。 (4)位相スペクトラムによる応力測定を行い、反射波(使用周波数範囲)による制約の少ない測定法として位相スペクトラムの利用が有効であることを示した。これは本研究で得られた新しい知見である。 (5)実用的な非破壊残留応力測定として、試料自由端領域と曲げ応力領域を利用する方法も有効であることを示した。特に後者では音弾性定数も同時に評価されることを示した。 (6)残留応力のせん断成分について一般に非破壊測定が可能であることを確かめた。これと上記(2)により、一般性の高い残留応力の非破壊測定法を確立することが可能であると判断される。
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