ダイヤモンドは超精密切削工具用の一種の理想材料として良く知られているが、工具材としてのある種の限界を決定すると考えられる損耗特性および損耗機構は全くといってよいほど明らかにされていない。本研究では、経験的事実から熱化学的な過程にもとづいて生じると思われる、ダイヤモンドの損耗特性および損耗機構を解明するために、切削中の切刃損耗を模擬する金属との接触加熱モデル実験および量子化学的手法にもとづくダイヤモンド表面の化学反応過程の解析を試みた。その結果今年度は次のことが明らかになった。 1.種々の雰囲気のもとでの熱損耗モデル実験から、接触している金属が酸化する条件下ではダイヤモンドも酸化し、一酸化炭素または二酸化炭素となって気化するため自然にダイヤモンドの損耗が進むが、接触金属が酸化しなければダイヤモンドの酸化も生じない。 2.ダイヤモンド表面の炭素原子によって接触金属が炭化される条件下では、生じた炭化物を連続的に表面から取り去ることができれば損耗は連続的に進む。 3.リカ-ジョン法および密度汎関数を用いてダイヤモンド表面の炭素原子の局所エネルギ-を量子論にもとづいて計算した結果、ダイヤモンド表面に酸素原子が吸着すると、表面第一層と第二層のボンド近傍の電子が第一層の炭素と吸着酸素間に局在してしまうため、第一層炭素原子は極めて不安定になること、さらに表面に鉄などの原子が近づくと一層不安定になることが示され、損耗機構解明の手掛りを得た。
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