研究概要 |
カオス的挙動をする物理現象をモデル化する際の最大の困難は必要最小限の状態量を見つけだすことである。特に対象の系が本研究の熱対流のような連続体で本来無限の自由度をもつ場合には低次元のモデル化が可能かどうかも明かではない。そこで本研究ではまず流れ場および温度場を空間全体で把握するために三次元画像処理流速計を開発し、カオス的な系の測定に必要な諸特性を明らかにした。また,数値シミュレ-ションにより対流セルが反転する際の挙動について調べた。 三次元画像処理流速計はCCDカメラや画像処理技術の発達により乱流計測などに利用されるようになっているが,カオス系の測定には画像ノイズや粒子の空間誤対応によって生ずる誤差により粒子追跡が不可能となるため性能改善が必要であった。そこで我々は従来から用いられている四時刻法にカルマンフィルタを組み合わせることにより瞬間速度場測定だけでなく粒子追跡が可能な新手法を提案し,それが有効なノイズフィルタとして働くことを実証した。また,これまで画像処理の際に捨てられていた有限露光時間による粒子の軌跡としての速度情報を有効に利用し速度測定可能範囲を拡大することに成功した。これは流れ場中の鞍点付近で粒子を正確に追尾しなくてはならないリアプノフ指数の測定には不可欠の技術である。しかし,粒子軌道の曲率が大きいところでは上記手法だけでは追跡を失敗することがあるので,カルマンゲインを局所化するなどにより一層の改善が必要であることも知り得た。 臨界レイノルズ数付近での熱対流場を差分法により非定常計算した結果,対流セルが三つに分裂してからその内一つを残して他は衰退するため見かけ上セルの回転が反転することが明らかにされた。これは分岐現象を理解する上で大きな示唆を与えるものである。
|