本研究室で開発された温度成層形成装置を用いることにより、風洞内に最大温度差Δθ=100Kの任意の安定度を有する成層流を精密に実現することができる。本研究によって得られた結果は以下の通りである。1.温度成層風洞に低乱流化・防振・消音などの改良を行い、次のような基本特性を得た。(1)騒音レベルを約15dB(A)減少させ、内部重力波の発生条件に対する音波などの外乱の影響を低減化された。(2)平均温度・速度分布の一様性がそれぞれ±0.25%以内、初期の温度・速度乱れ強度がそれぞれ0.1%及び0.14%程度で、二次元性が良好で、初期乱れの小さい成層流が実現された。(3)局所温度・速度勾配に基づく局所リチャ-ドソン数Ri=0.5のステップ状の温度分布を有する強安定成層流を実現し、その混合層内で自然発生・発達する内部重力波がはじめて風洞内で観測された。これらのことにより、内部重力波の自然発生・発達、さらにはその崩壊に伴う乱流への遷移過程を明確に観測することができた。2.次に自然発生した内部重力波の性質について詳細に調べた。その結果、(1)内部重力波が発達し、Thorpeが理論的に示した三波共鳴条件を満たす位置で、内部重力波の崩壊を示唆する逆勾配熱流束現象が認められた。これらのことから、波動の崩壊は従来の定性的結果から言われていたような波面の上下層で生じる剪断的不安定によるものではなく、波動の各成分間での相互干渉によって特定の成分が卓越的に発達したために起こるものと考えられる。(2)内部重力波の上限周波数であるBruntーVaisala周波数以下の周波数を持ち、極めて微小な振幅を有する初期擾乱が、混合層内で下流に行くに従って成長していくことが確認された。このことは、人工的に微小な温度または速度の擾乱を成層流に与えることで内部重力波の発生や過程を制御しうる可能性を示している。
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