X線CT法と同じように超音波CT(Computed Tomography)法は主にコンピュータトモグラフィによって生体の断層像を得るための方法であるが、超音波はX線のように放射線障害がないので簡単な装置で測定できる利点がある。この研究の目的は物体の様々な方向からとった音速の投影データから物質中の内部の温度分布を非接触的に測定する方法を見いだすことである。最終的にはこの方法が生体の温度分布測定に利用できればと考えている。 この研究では最初に必要な投影の数を最小にするため三つの再構成アルゴリズムの比較を行った。次に超音波を用いて水中の音速が温度によってどのように変化するかを調べる実験を行った。そして水中の温度と音速の関係式を求めた。さらに水中の温度分布を超音波CTと熱電対によって測定し比較した。最後に寒天で作った生体ファントム内の温度分布測定の実験を行った。その結果、一様なファントム中であれば約0.1℃程度の精度で温度分布を測定できることがわかった。 実際の生体組織への適用にはまだ突破しなければならないいくつかの壁がある。その一つは生体が非均一系である点である。しかし、血液とか筋肉などの高含水率組織内の音速と、音速の温度係数は殆ど同じと考えられるので、温度変化前後の音速分布画像を差し引くことによって、複雑な生体組織の影響を受けにくい温度差計測が出来るのではないかと考えている。しかし、問題は音速が倍近く大きい骨の存在である。その境界で音波の反射、回析が起こるため、温度変化による微小な音速変化のみを観測することが難しくなる。そこで現在考えている方法は、音波の位相情報から直線パスを通過した音波のみを取り出す技術を何とか確立できないかと考えているところである。
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