本研究は、リン酸形燃料電池の材料特性、構造、運転環境をもとに燃料電池内の電圧・電流、温度及びガス濃度分布を解析する理論を開発及び拡張し、機器の最適設計、運転方法の改善、あるいは異常時の特性予測などに広く活用することを目的としている。 平成3年度には、燃料電池が遭遇する各種環境条件すなわち保管、停止負荷変動、定常運転などに対応して、特性解析を行うためのセル要素の基礎データを取得すると共に、燃料電池内で発生する水分の移動メカニズムを明らかにした。 本年度は、大形の燃料電池を用いて急激な負荷変動実験を行い、過渡状態における燃料電池内の特性変化を初めて測定した。燃料供給の遅れが大きくなると、燃料電池内部に水素不足箇所が発生し、局部的な腐食電流が流れることが、理論と実験により確かめられた。腐食が発生しない過渡応答限界を記述する理論を開発し、実験と合致することを示した。 これらの結果は、燃料電池の負荷応答運転のために不可欠な知見であり、電気学会論文誌Bに成果として発表した。 平成3年度に明かにした水分移動メカニズムを従来の特性解析理論に組み込むことにより、高精度の特性解析理論を完成させた。この理論は、燃料電池内の特性分布を予測するのに有効であるだけでなく、リン酸形燃料電池発電プラントの熱・物質収支を計算するために必要な燃料電池からの排出水分の予測にも役立つものである。 この特性解析理論は、現在電気学会論文誌Bに投稿中である。
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