予備実験で試作した圧力制御型水銀ビ-ム源にステンレス製蒸留精製装置を取り付けた。同装置により回収効率91%で水銀を蒸留精製できた。これは気化室(190℃)および凝集室(130℃)の水銀蒸気圧から計算される値と一致していた。不純物元素のなかで結晶性に大きく影響する酸素の供給源となるガス成分(O_2とCO_2)の除去効果を四重極質量分析器を用いて評価した。1回の蒸留精製工程で、O_2については1/10以下、CO_2については1/100以下まで含有量を低減できることが明らかになった。MBE成長条件を正確に制御するため、試料の加熱方式を輻射加熱から通電加熱に変更し、同加熱装置を本科研費で購入したマニュピレ-タに装着して、MBE装置に組込んだ。以上の改良により、成長温度の再現性が改善され、さらにRHEEDの観察が容易になり、単結晶成長条件が容易に見い出せるようになった。MBE成長したHgTe膜中に含まれる不純物酸素原子の量をSIMS測定で評価した。蒸留精製した膜は、精製しない膜に比べ酸素原子濃度は、約1/10に減少していた。以上より、水銀を蒸留精製することより成長膜の純度が向上する事を示した。ただし、当初期待した、単結晶成長温度領域の大幅な拡大は、確認されなかった。これは、排気装置の能力不足によるMBE装置自体からの汚染が存在しているためと思われる。これは、SIMSで測定した酸素原子濃度分布が成長膜表面で高かったことからも示唆される。
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